主張・立証活動について(メモ)

 裁判直後に書いたメモが出てきたので、一部直して掲載しておきます。専門家から見ればおかしな所も多々あるような気がします。今後もこのような事件が多発することも予想されますが、砂川及び道選管の失敗事例を踏まえ、居住要件が争点となるような同様な事件が起きた場合、事実認定について、自信がもてない各自治体選管の担当者においては、率直に弁護士に意見を求め(できれば複数)、さらに、政治的中立が期待される識者を交えた調査委員会のようなものを設置し、事実関係については、その後の訴訟にも耐えうる徹底した調査を行うことで、妥当な結論を導くことを期待したいと思います。調査手法については、スーパークレイジー君事件の当事者である市及び県選管が精緻な調査を行っていることから、これらの調査手法を実務家は参考にすべきと思います。以下、メモです。

 民事訴訟は、当事者が提示する一定の権利または法律関係(訴訟物)の存否についての判断を求めて提起される。また、訴訟上提示された権利または法律関係の存否は、法の規定する法律効果の発生要件にあたる具体的事実が存するかどうかによって決められる。このような法律効果の発生要件にあたる具体的事実を要件事実(主要事実)と呼んでいる。

 公職選挙法9条2項及び10条1項5号よれば、「引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する者」について被選挙権を有する者としている。

 本条に規定する要件に該当する具体的事実が「要件事実」となる。そして、その証明がなければ、それに基づく法律効果(被選挙権)が発生しないことになる。

 民事訴訟(行政訴訟)がこのような原理によって運用されている以上、当事者としては、訴訟において証拠を整理し、自らの目的にかなった訴訟上の主張・立証として掲示していくという作業が必要になる。 

 住所を有していたことを主張する側であれば、これらの要件事実を文書等の証拠方法により主張・立証していくことが必要になる。また、間接事実も、重要な要素となり、間接事実の存在を「経験則」で推認させることでこれを主張するもの一つの方法である。

 ここで注意しなければならないのは、間接事実についても、客観的に主張する必要があるということである。反対尋問を経ていない「聴取による具体的かつ詳細な(本人の)証言」(令和元年7月11日付け砂川市選挙管理委員会弁明書より)のような要素は間接事実にもなり得ないことに注意すべきである。

 また、事実認定において、重要な点は「経験則」と「動かしがたい事実」であると言われている。しかし、本事件については異議申立時より、現地調査、当事者への聴取及び生活インフラの使用状況といった事実等に基づく事実認定を行えば当選無効の判断は不可避であった。

 なお、当然ではあるが、被選挙権を有していない者が、たとえ当選に必要な得票を得たとしても、その結果をもって違法性阻却事由とはなり得ないことは言うまでもない。そのような事を認めると居住要件を満たさない候補者が格安のアパートを借りて、手あたり次第立候補することを全く抑制することができなくなることからも明らかである。

 このように、原決定が明らかに当選人にとって不利な事実を取り除き、かなり強引な事実認定を導き出している背景として、起案を主導した者の誤った法解釈や基本知識の欠如以上に、何らかの主観的な要素というものが想定されるが、いずれにせよ、公職選挙法等が予定している「住所」という動かしがたい事実を主観的な要素により歪曲したのが、この両選挙管理委員会における事実認定であったと私は考察しているが、真実が当事者から語られることはないであろう。

(参考文献) 

  • 伊藤滋夫「要件事実・事実認定入門」120頁
  • 田中豊「事実認定の考え方と実務」206項
  • 渡辺充「速報税理」ぎょうせい2011年4月11日号26~30頁、同4月21日号28~37頁